アル・プス大縦走~縦走ゴンゲンゲンゴンから猿をバミれ~前編
冬が来たら・・・と決めていた大決戦。
デカイ縦走決めてやると。
己の成長みせつけてやると。
出発前に嫁にはこう告げた・・・
『夕方には迎えに来てください・・・またメールします。』 とな!
あまりの俺の決意に思わず嫁もこう言った。
『いいけど時間次第』
綿密な計画でもって決戦は実行される。
決戦の地に降り立った。
今日は国内最難関といわれて久しい北鎌沢出合からのスタートである。
ここからは急登の連続。
危険だから遊び半分では絶対に近寄らないで欲しい。それが北鎌。
この何年かのハードワークの賜物、自分の体力も付いたのだろう・・・
そうこうしている内に北鎌独標小屋に着いてしまったではないか!!
ご覧のテラスが気持ちいいこの小屋は余裕のある時に是非ご利用頂きたい。
しかし先は長いのだ。
こんな所で感動している暇も無いし感慨にふける時間も無い。何より出発して早々帰りの時間を気にしなくてはいけないプレッシャーに打ち震えているのだ。
独標に小屋があるなんて知らなかった。やさしい人の仕業に違いない。
自然と『ありがとう』という気持ちがあふれてくる。
これが【登山マジック】
僕を登山に誘うひとつの大きな要因だろう。
そう、丸裸の自分に近づき向き合え!!
その昔の山岳信仰の始まりを見たようだ。
先を急ごう。
秋の山々が美しい!!
なんという朝だ!!
そして槍に続く心臓破りの坂。
通称『胸くそ八丁』
だいたいビギナーといわれる人たちは100%ここで愚痴をこぼす。
『まじでー・・・ここのぼるの?聞いてないんだけどー』
『まじカンベンって感じなんですけどー』
などとコキアガル。
登山とは『山を登る』って書くんだお。
山を下るは『下山』だお。
山も君たちに登って欲しいなんて思ってないお。
そう登山とは心の鍛錬そして謙虚。
そんなことを考えるうちに僕はいつの間にか槍のピークを通り越し山荘まで来てしまったようだ。
いやはや・・・はやる気持ちがそうさせたのか、はたまた集中力が身についたのか。
以前この場所で大火事があった事を私は鮮明に覚えている。
運転中のクルマから見たその景色は、空が真っ赤に燃え上がり広範囲に及んだ。
山の火事には十分に注意が必要だ。
そういえばこの小屋・山域には主といわれる大変有名な方がいらっしゃる。
SKR井さんといえば知っている方が多数おられるだろう。
SKR井さんは完全ボランティア小屋番として登山道の整備や道迷い撲滅の看板の設置等にご尽力されている方なのだ。
そして岩場のルートを開拓されこの山域にグレーディングの概念を持ち込んだ第一人者。
この山域で山下清ばりの大きな白三角おむすびをほお張る人物を見かけたらその方こそこの山の主『SKR井さん』と覚えておいて欲しい。
SKR井さんいつもありがとう。
ここからは霞んでいるが御嶽山の姿も見える。
晴れた日は、北アルプスの山々や中央アルプス、恵那山も見える。
そして始まる遥かなる縦走路。ワクワクすっぞ。
そして微かにだが槍の姿も確認。
神々しい姿に思わず合掌。人類で始めて見た人もそうしたに違いない。
そうこうしている内に槍から一気に南岳山荘にまで来てしまった。
そしてここが始めてSKR井さんに声を掛けられた思い出の場所である。
ソーセージをクックしていた時、背後から声を掛けられた。
『なに、お兄さん。山好きなの? おいしそうなもんつくっとるな』
SKR井さん元気なのだろうか?
新旧入り乱れ。これも時代の流れ。
右に見えるのが山岳信仰が始まった頃からの遺産、古くはなっているがまだまだ現役バリバリの木製アンテナ。
感慨深い一枚である。
南岳を越えると、ここから一気に高度を下げることになる。
皆さんの憧れでもあり大変危険なスポット。
そう【大キレット】の登場である。
大縦走を控えているのにここで怯んでいる訳にもいかないし、ましてや引き返したり命を落とすわけにもいかない。
平日の朝でもかなりの交通量、そしてスピードを出した荒くれ者たちが交差するこの大キレット。十分に注意を払い、しかし確実に歩みを進めて欲しい核心部だ。
ブラインド気味でタイミングを計るのが非常に難しいこの場所。やはり山は譲り合いと助け合いの心ということを痛いほど実感できる場所。それが大キレット。
緊張はまだまだ続く。