だいたい山旅〜遊びたいのも山々

人生も折り返しを迎えたアラフォーおじさんの荒波一万尺

シメのワサビ平鍋 〜ラッセルビギナーの進級試験〜

仕事を終え意気揚々新穂高に現れたおっさん独り。この日はワサビ平から鏡平を目指すゴールデンコースの『お平巡り』に来たのだ。

 

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しかしこのおっさんは既に幾つかのミスを犯している。

 

ある事だけに気を取られ過ぎたあげくの単細胞。

 

まず、1時間寝坊。

 

いや、目覚まし時計通りに起きたのだが目覚ましの時間設定自体を間違えるという行い。

 

カンジキ忘れる。

 

新雪を楽しみに来たのは間違いない。

しかしラッセルを楽しみに来るほどのドがつくMでも無ければスタミナも無い。

 

会社に一つ仕事を忘れる。

 

コレはもうこの時点で諦めるしか無い。

 

その上、ここがあの新穂高の駐車場か?ってくらい閑散としている。自分の車も合わせ二台。

 

事実上プチ満身創痍の出発式。

 

 

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気温はマイナス2℃ほど。

 

心は低体温症寸前。

 

そしてこの子の安定感。

 

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この子は本場アルプス生まれ。日本アルプス程度は常夏に近いのである。

 

この子との付き合いも長いので、大体盛った報告をしてくれる。気持ちを温めてくれる機能を併せ持つある意味AIの先を行く名機。

 

ほっこりアイテム。

 

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そしてゴールデンルート指定されているにもかかわらず、ノートレース。

 

こんなラッキーもない。

 

トレースを期待していた自分を戒めなければいけない。

 

足跡は自分の歩いた後にできるものだ。

 

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久しぶりの雪を踏む感触も素晴らしい。

 

気持ち良く歩ける。

 

忌野清志郎も気持ちいいと言っている。

 

雪はくるぶしくらい。

 

もう少し欲しい自分は欲しがりおじさん。

 

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なにせ雪を楽しみ今年をアレでシメたいのだ。

 

ワサビ平までの道のりがこんなに気持ち良いのは冬ならではなのかもしれない。

 

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とにかく林道感も無く雪の山あいが風情があって気持ちいい。

 

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徐々に雪深くなってくる。

 

スネラッセルほど。

 

あのスネ毛を揺らすそよ風くらいの感じだ。

 

そしてこのザマだ。

 

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石の前にひれ伏すこのおっさんは、この頃にはひざ丈くらいになった慣れないラッセルを強いられた上、数々の失態、いやそもそもトレースは付いているものだとの思い込み等々…思わず『ワサビ平』と書かれただけの石を小屋だと勘違いする程消耗していた。

 

そして持病であるあの【胃酸が頼んでも無いのに遡上してくる病】逆流性食道炎、略して逆食が暴れ始める。

 

業界ではその病もしくはその病を患った人間を総じて【逆食】と呼ぶ。

 

『あー、逆食の調子は?』とか『〇〇さん逆食だから仕方ないですよ~』とか哀れな扱いを若いナースから受けることが多々ある。

 

逆食になって得をしたひとつのエピソードである。

 

 

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この時頭のなかにはいつものように曲が流れていたのだが、ずーっとクイーンのsomebody to loveの『somebody』の部分だけ永遠リピートだったのが気づくと、『ラッセーラァ〜ラッセーラァ』の永久リピートになっており、この直前にはただ『ラッセッ、ラッセッ、ラッ、アッ…』っとR指定目前の悶絶を持って絶頂に至っていた。

 

暫しこの体勢でワサビ平岩との会話を楽しんだ後、息を吹き返しもはや振り上げたバットの先はスコアボード(鏡平)ではなくセカンドゴロ(ワサビ平)狙いになっていた。

どうせ良いのである。鏡平に行けたところでこの天候何の展望もない筈である。槍のやの字もない筈だ。

 

ビギナーには言っておきたい。登山は帰って来て初めてコンプリート。バットを持たずしてヒットは生まれない。デッドボールは死なのだ。

 

このおっさんは家を発つ時点で、山に『行ってはいけないおじさん』なのである。

 

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そしてビギナーに行ける筈も無い笠新道の入り口を分かったかのような振舞いで眺め、人っ子ひとり居ない雪深い林道を『ラッセ…ッセ』ともうラッセーラにもならないリズムを取りながら遂に本日の目標の地『ワサビ平』に到着。

 

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どうだ。誰も居ない小屋を征服だ。雪なんか小屋付近から急に股下ラッセーラァに、なたよ。

 

もう諦める理由を探さなくても大丈夫なほどネタは揃った。

 

清々しい。もう迷う事など一つも無い。

 

ここで目的を実行だ。

 

その目的こそ色んなものをミスへと変えた張本人。

 

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ひとりモツ鍋セット(ちゃんぽん麺付き)

 

略して『ピンモツベーナー』

 

本場博多で多用される言葉である。

 

一等地も確保。

 

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ポジティブに受け止めれば独り占め。

 

ネガティブに見ると真冬の大雨のフェスで、いちばん遠い端っこのヌタヌタ足場でかき氷ブースを出店してしまったおっちょこちょい。

 

でも今の彼は至ってポジティブ。

 

目の前には夢しか無い。

 

ただ、雪中ピンモツベーナーがしたかった。

 

このモツベーナーは逸品で、食材の全てが入り尚且つシメの麺までインクルード。もちろん極上のお味。

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そしてシメの麺投入。

 

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この時完全にこの状況に陶酔し、全ての出来事、主にハプニングに対して『ありがとう』という思いで満たされる。

 

ハプニングというスパイスでピンモツベーナーはすばらしい進化を遂げた。

 

ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれない。

 

ビギナーには分かりづらいかもしれないが、この状況で本当の意味でシメてくれるアレが無いのを。

 

 

もうひとつ家に忘れ物をしている。

 

 

 

そう、コーヒー。

 

テーブルの上を見てみよう。

 

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画像でいくとちょうど北西の方角にコーヒーを飲む前提でマグカップなるものが伏せてある。

 

この人物は、もうこの時点で気付いていたのだ。このマグを使わない事を。

 

お口の中がモツであふれている。

 

こんな時にも雪中はありがたい。無尽蔵に有る雪をハムスターの如く己の頬袋に叩き込めば良いのだ。

 

こうして間近に有る自然を利用、満喫出来てこそ真のアルピニスト

 

こうして、寒中で少し仮眠を取った後、鏡平に背を向け冷え切った身体と数々の戒めを胸に『下平ら』する。

 

この日は【ワン平】しかクリアできず、今後のラスボス【雪中雲の平】など到底不可能である。

 

夢は諦めず取っておこう。

 

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