憧れゴロゴロ双六 〜幻の稜線〜
ウミノソコカ?…
二連休の前の晩、高校時代からの親友Aと呑み。
この親友Aとは、バンドを永きに渡り組んでいた。
彼がベースで僕はギターorドラム。
このAという男は、全く良いヤツなのだが、寝すぎグセ、寝坊グセ、遅刻グセ、忘却グセ、脱力グセ・・・・・・ダメグセの総合商社だったのにもかかわらず、『アイツまたしょーがねーなー』なんて感じで何故か愛されキャラで通ってきた。
しかし最近では人が変わったようにつらい仕事もコツコツこなし、正義感と愛に溢れるナイスミドルに進化を遂げたA。
そんなAとはもう、阿吽の呼吸なのである。
吐きギワ、寝ギワ、便ギワ、飽きギワ…全て分かってしまう。
明日はどうせ雨だから…と山を諦めた夜、そんなこんなで音楽話、楽器話に花が咲いて夜はふけるのであった。
翌朝、穂高周辺の天気を確認すると、明日午前中は天気もちそうじゃない!
槍行く?…と思ったが、昼に崩れて沢が荒れて流しおっさんも…。翌日は問答無用のお仕事。
晴れたじゃない。
しかし大人の選択、LONGLONGな双六ピストンに決定。
とにかく一日目一杯、己を使い切ってボロボロになりたい盛りなのだ。
燃え尽きたいのだ。
あの大らかな稜線でゴロゴロ双六したいのだ!
もう吉岡里帆に会いに行くとなれば真っしぐらである。
若干小走りになったりなんかする。
一ヶ月前より雪もだいぶ減ったようだ。
槍ちゃんの揺るぎない先っちょ隠し。
しかし思ってたより晴れた。
これもまた、自分のアツイ思いが通じたのだろう。
小池新道ってのは全く飽きない。
傾斜もそこそこで歩き易く整備され、ずっと気持ちいい。
木道も何とも言えない雰囲気で気持があがってくる。
小屋の方々に感謝である。
吉岡新道を進むと、あらあら来ちゃうじゃい?
あぁー…ここに住みたい。
『街から遠いよ』とか『雪凄いよ』とか周りには言われるだろうが、ここに住みたい。
『穂高のオンジにオレはなるっ!』
最終的に切り株の年輪を数えながら凍死しても悔いは無い・・・か?
なんて思いながら鏡平小屋。
実はもうここで良いか!?なんて思ってたが、時間はまだ9時。
また急に吉岡里帆…双六でゴロゴロ欲が湧いてくる。
そう、お向かいの槍や鷲羽に見せつけてやるのだ!
途中弓折岳の分岐手前で、落石という洗礼を受けそうになる。
ゴゴッっという音がした途端、トミーズ雅の頭位の岩が2つ、5メートル位先を転がり落ちた。
こんな時、意外と何も出来ない自分がいる。
ただ呆然。
浮かれた自分の気持ちを引き締めてくれた。
そしてその10メートル向こうの分岐に、岐阜県警の方々。
どうやら訓練中の小休憩。
あそこでトミーズ雅さんに当たっても、即救助となっていただろう。
県警の皆さん、山の安全をありがとう。
青い大空に舞う県警のヘリ、穂高を覆い始めた白いモクモクモクモクモクモク・・・
そして遂に吉岡里帆ちゃん発見の瞬間。
『どこがやねん』と思われるだろうが、人は焦がれた果てにそう見えてしまうものである。
あの稜線でゴロゴロするのである。
そして小屋発見。そのバックにはチョー立派な鷲羽岳と肩にはひょっこりはんな水晶岳。いつかはあそこに行きたいぞ。
北アの奥地の大物達が集結。雲ノ平会議が繰り広げられているのだ。その場にいつか行きたい。ちゃんと休みが欲しい。
またこの小屋まで自分の足で詰めていく感じがたまらない。
もうここでゴロゴロしたいくらいだ。
きっとここは吉岡里帆の膝の辺りだろう。
もう己の変態観も最高潮である。
ここに住みたい。住んでられないだろうが住みたい。
小屋の方とお話出来たのだが、皆さん本当に親切でとても良い雰囲気。
五目ラーメンを頂く。
疲れた身体にこの塩っ気がたまらないのだが、汁物に汁物重ねの味噌汁付き。
しかしこの味噌汁がまた美味い。
おふくろの味、できた嫁の味。
さすがは吉岡里帆の膝にある小屋。
間違いナシだ。
食事を済ませ、本日メインの双六岳山頂を目指す。
で、だいたいこんなタイミングで雲がモクモク湧いて来て小雨のパターン。
そして地元で言う金華山一つ分くらいの、まあまあな登り。
でもここは吉岡里帆。
そんなものは屁でもない。
最高のご褒美が待っているに違いない。
ほら。
ココハウミノソコカ?
小雨が雰囲気を助長する。
煙幕の向こうから間違って小林幸子が出てきそうな雰囲気。
ホボスイソウ。
ゴロゴロシタイ。
シタガヌレテテゴロゴロシタクナイ。
双六のあの展望はない。
双六じゃないのかもしれない。
吉岡里帆じゃないのかもしれない。
ココハドコワタシハダレ?
山頂から下山中何とか天気持ち直すも、小屋まで戻ると雨足が強まる。
カッパを着て退散。
途中、この吉岡里帆に見放されたも同然の絶望に満ち満ちたおっさんを、一羽の優しい雷鳥ちゃんが帰り道を踏み外さないよう案内をかって出てくれる。
この頰を伝うのは雨なのか涙なのか…
そして、例のイタドリが原ら辺を過ぎた頃には土砂降りの雨。
携帯も取り出せず写真もナシ。
林道は川状態で靴も浸水でビッタビタ。
ただ、下山って何もなければ苦痛だが、この土砂降りスパイスで逆に退屈せずにあっという間に帰る事が出来た。
雨の中、わさび平小屋の方にも親切にして頂いた。
このゴロゴロ戯れられずの山行は、『また来てね』の合図であろう。
次回は泊まりで行きたい。